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夏休み読書

「世間が愛のことを本の中であんなに書きたてるのも、無理ないかもしれないな」
と彼は静かに考えた。
「たぶん愛なんて、本の中以外はどこにも住めそうにないものなんだろうな」
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== おはなし ==

夏も終わるの日記

時々訪ねてくる友人に、ある時訊かれた。
この家、なんにん住んでるの。あなたがた夫婦以外に、誰かいますよね。
友人には、見えないというので、説明した。
博士とその助手。とよんでいる。
なにかの研究をしているらしい老人と、ちょっとたらなさそうな男の子。
こちらと同じ空間にすんでいるわけではなく、かれらのいる空間とこちらの寝室とが、一部重なり合って、同時に存在するらしい。
はっきりみえるときと、うっすらみえるときと、全然みえないときもある。
なんの研究か。二人はのんびり行動している。ならんですわっているだけの時間もある。
そんなとき、二人は、親子のようにもみえた。
寒い夜は、こっちの布団にはいりこんでいるときもあるのだった。
友人には彼らはまったく見えないのだが、かれらの話をしてあげているうちに、たまさか、話し声だけは、友人にもきこえるようになったらしい。

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ふたりはいつも、のんびりくらしていたが、博士の様子から、研究がうまくいってなさそうなことは、伝わった。
博士は、たくさん手紙をかいては、どこかへ出している。
そのうち荷造りする姿も、みかけるようになった。

しばらくぶりに、友人がきた。
博士、どうしてますか。

遠くへいったみたい。ガラパゴスとか。

助手もいっしょですか?

助手は、博士がいなくなってひとりぼっちになると、いつもうちのガレージにしゃがんでいるようになった。
三階の寝室には、はいってこなくなった。
前にはこちらの世界はみえないようだったのが、助手ひとりになってからは、ガレージからいつも、一階の部屋をこっそりのぞいている。
そこは、モンマリの部屋だ。
助手は、マリをのぞいては、手にもったノートにしきりになにか書いている。
マリを観察するのが、彼の新しいワークなのかなんなのか。
助手がもっている、青い、堅いカバーのノートブックが、マリが、結婚する以前に、フランスから買ってきてくれたノートなのも、気になった。使わないでとっておいた、お気に入りだったのに。
いったいどんなことを、書き付けているんだろう?

さて、モンマリは、ガレージからのぞく視線に気づいているのかどうなのか。
昨日、マリが、懐中電灯がないと言い出した。
今あって今みたらもうない。
キミ、しらない?
マリが大切にしている、高性能のライトだ。
壁に、自在な大きさで、銀のお月さまを作ることができるのだ。

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ひとりぼっちになった助手に、こちらはどのくらい、見えたりきこえたりしてるのか、解らなかったし、それはどうでもよかったのだけれど、こうなってはしかたがない。

ガレージにいって、はじめて話しかけた。
博士は、遠くガラパゴスに行ってしまったこと。
だからそのライトは、あなたから博士にはあげられないと思うこと。
彼を傷つけないよう言葉を選びながら、知っていることだけをぽつぽつ、助手に、伝えて、うちに戻った。
助手は、きこえているのかいないのか。いつものように、ぼんやりと、どこかをみていた。

さっき、あがりかまちに、紛失したライトが、おいてあった。
垂直に、きちんとたててあり、あのフランスのノートも、ならべておいてあった。

ノートをぱらぱらとめくってみたが、ひとつの文字も、書かれてはいなかった。
そして、彼は、ガレージからも、いなくなった。








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