== おはなし ==

おにんぎょ姫 その1

ある時、とあるアパートの一室に、お姫さまが住んでおりました。
建物の一階はお花を売っている店でした。
お姫さまの部屋は、二階のはしっこで、南にむいた窓がひとつだけありました。
申し訳程度のキッチンがついた一間きりの部屋でしたが、窓だけは大きく開いていて、アパートの隣の公園の緑がe絵のように広がっていました。

そのちいさなアパートが、お姫様の王国でした。
王国の住民は、お姫さまが作る、ちっぽけな人形たちでした。
人形だけの、小さな国を、お姫様は平和に、統治なさっていたのでした。

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お姫様が王国の外に出るのは、月に一度だけでした。
うすみどり色のバスにのって、隣の町まで行くのです。
町には、お姫様の人形を、買ってくれるお店がありました。

ちりりん、古びた扉についたベルが鳴って、お店のおんなのひとが顔をあげます。
「モイラさん、いらっしゃい、おまちしていたのよ」
それがお姫さまの名前でした。
お店のひとは、モイラ姫が、お姫様だということは、知らないのです。
ただお姫様の人形は、お客様には人気があるので、喜んで迎えてくれるのです。
もっとたくさん、持ってきてくださってもいいのよ。
お店の人はいつもそう言ってくれるのですが、お姫様は、静かに笑うだけでした。

帰りのバスを待つ間に買う、質素な食べ物と少しの日用品。
それをまかなうだけのお金がもらえたら、充分なのです。

バス亭のそばのカフェで頂く、おいしいお紅茶と小さなケーキ。それが、月に一度の、お姫さまの贅沢でした。
町はさまざまな人が通り、物がたくさんあって、色彩と音に満ち、お姫様をひととき楽しませてくれます。
けれども、モイラ様がお姫様だということを知らない人たちの中にいると、すぐに疲れてしまうのです。
行儀の悪い子どもたちにバスの順番をぬかされたり、カフェで荒っぽいウェイトレスに水のカップをこぼされたりしたあげく、人形たちがまっているちいさな王国に帰りつくと、お姫様は、ほうっと、安堵のため息をつくのでした。

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