== おはなし ==

おにんぎょ姫 その2

ある時、お姫様の隣の部屋に、王子様が引っ越してきました。
他の人にはわからなくてもお姫様にはすぐ、彼が王子様だとわかりました。
王子様も、モイラ様がお姫様だということが、ひと目でわかりました。
そういうものなのです。

そしてふたりは、結婚の約束をかわしました。
王子様は、さっそく、お姫様の部屋、いえ、王国を、訪問したがりました。
「人形たちがいやがるの」
お姫様が真剣に言うと、王子様は、鼻先で笑いました。
王子様は、人形なんか、興味はなかったのです。
でも、王子様ですので、お姫様の気持ちを、尊重するだけの教養はありました。
お姫様も、夜中の会議で、人形たちを説得しようと努めていました。王国の人形たちは、真夜中にしか、口をきかないからです。
それで、お姫様はいつも、午前中は眠っていて、夕方から人形を作るために、起きてくるのです。

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王子様は、だんだん、機嫌が悪くなってきました。
王子様もやっぱり、王子様であることを知らない会社という所に行って、会社員というものを、しなくてはなりません。毎日ストレスがたまります。
その上、隣の国にいるのに、お姫様になかなか会えないのです。
たまのお休みに誘いに来ても、お姫様はたいてい眠っていて、城門は、かたくとざされておりました。

お姫様のつましい生活を支えてきたのが、人形たちだということは、王子様も承知していました。
王子様は、本国の、王様とお妃さまを、頼ることにしました。
お妃さまは、遠い国から、飛んできました。そして、モイラ姫をみて、たいそう喜んでくれたのです。

ちりりん、とベルが鳴って、いつものように、お店のマダムが、喜んで人形を受け取ってくれました。
瞬間、マダムはふと、眉をしかめました。
お姫さまは、どきっとしました。
そもそもお姫様の人形は、布でできているのに、さわるとなぜか、ほんのり暖かいのです。まるで、生きているように。それが、お客様たちに、人気の秘訣だったのです。
でも、今日は、人形は、ただの布のようにひんやりしているようでした。

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王子様は、会社員をよして、本国に帰ることになりました。王様のあとを継がれるのです。
そして、お妃として、モイラ姫も、連れて帰るのことになったのでした。

その話をした夜から、人形たちは、お姫様に口をきかなくなりました。
熟練したお姫様の手が、どんなに優しく丁寧に動いても、あの、ほんのり暖かい人形は、もう、産まれてこなくなりました。

王子さまは、お姫様の悩みを、半分しか耳にいれてないようでした。
人形が生きているなんて、王子様には信じられなかったのです。でも、なんといっても王子様ですから、お姫様のおっしゃることを、きいてあげるつもりは、あるのです。
どちらにしても、本国に帰れば、お姫様はもう、日々の糧を稼ぐ必要はないのですし、人形のことなんて、じき忘れるだろう、かえって好都合じやないかと、王子様は、全てに上機嫌でした。
会社に行くのも、あともう少しです。




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