== おはなし ==

しらゆきちゃん  おはなしの箱 三個目

ある時、わたしは森へ行きました。
丹精した庭のリンゴを、かごいっぱい詰めて。
あの子は、このリンゴが、大好物だった。
いなくなったあの子を、遠い森でみかけた人の、うわさをきいた。
7つの丘を越えて、わたしは歩きます。ああ、このリンゴ、こんなに重かったかしら。

森の奥、みすぼらしい小屋に、あの子は居ました。まっしろな服を着て。
そう、この子はいつも、白い服しか着なかった。

この娘が8つの時に、わたしはこの子の父に嫁ぎました。器量をみそめられて。しかし、夫は、あっというまになくなり、わたしは一人で、義理の娘を育てる決心をしました。
娘は、みためはずいぶんと愛らしい子でした。そして、たいそうな怠け者だったのです。

ひがな空想にふけっては、リンゴをかじって暮らしており、絶対に白い服しか着ないので、それを真っ白に洗い上げておくのは、たいへんだった。
真っ白いドレスの娘は、お皿一枚洗おうともしないで、一日の労働に疲れ果てて帰るわたしに、わけのわからない空想を、長々とおしゃべりしたがるのですが、わたしはそんな毎日を、さほど苦しいと思わなかった。悩んでいる余裕も、なかったのかもしれません。

あのころわたしの友達は、古い鏡だけ。鏡だけが、まだ大丈夫、と安心させてくれたのです。生活に疲れても、わたしは、まだ、美しさが残っていたから。娘は、ママの魔法の鏡、と呼んで、うらやましがっていたものです。
14になる前に、娘は、ふらりとうちを出ましたが、その時、鏡を、盗んで行ってしまった。
それからわたしは、ひとりぼっち。もう、鏡をみることも、なくなった。


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「魔女だぁ魔女がきたー」

背後で、声が。ふりむくと、不器量なこどもたちが、わたしに石を投げて騒いでいます。
「あの、悪いママハハの魔女だあああ」
えっと驚いて、娘の顔をみますと、娘は、ニヤニヤ笑いながら、リンゴにかぶりつくところでした。
「年寄りの魔女めーあっちいけー」声は威勢よいものの、わたしに当てるつもりはないらしく、石は、みんな、力無く、手前の地面におっこちました。
こどもらはひいふうみい、、数えてみると、7人いました。みんな、みすぼらしいみなりで、やせこけて。
こんな森の奥で、娘だけがなぜ、純白のドレスを着て、ふっくらした頬で、嫣然と微笑んでいられるのか、わかった気がしました。

それにしても、このリンゴがなぜこんなに重く感じられたのでしょう。足はもう、ガクガクと震えています。
わたしはまだ、そんな、歳ではないはずなのに。

リンゴをかじっていた娘が、もう片方の手を、わたしの前につきだしました。
わたしから盗んでいった、あの鏡。

いつのまに、いつのまにわたしは、こんなに歳をとってしまったのでしょう。
その手に持ったリンゴよりも艶やかに輝く、娘の頬に背をむけて、わたしは、よろめくように、森を出てゆくのでした。



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