== おはなし ==

木苺の誘惑 その4

ぽちゃとした外見と裏腹に、象男は素早く、まもちゃんの枝まで、よじ登ってきました。

「こんなとこでかえるが、なにしてるんだ、大魔女さまにみつかったら、シチュゥにされるぞ」
やっぱり、ここに、魔女、いるんだ。まもちゃんは、溜息をつきました。やだなあ。

「うさぎの目玉か」象男は、事情をきくと、得意そうに、鼻をならしました。
「知ってるぞ知ってるぞ。おいらはなんでも、知ってるんだ」

「前の前の季節に、大魔女さまの宝石、ぬすんだ鳥がいるんだ。誘惑木苺っつう、何千年も大事になさっていた、魔界にも二つ無い、真っ赤なダイヤモンドなんだ。鳥がかくしていたその宝石を、バカうさぎがうっかり食べちゃったんで、大魔女さまがおこってなあ」

もうあんまり、この先、ききたくないけど、任務遂行のためには仕方ない…。
「喰われた宝石のかわりに、その意地汚いうさぎをさらってきて、めんたまを、おいらがくりぬいてさ
しばらく片目のうさぎを、下働きさせてたんだが、あいつ、いつのまにか、逃げたみたいだなー」

まもちゃんが仰天していると、いささか、うしろめたそうに、魔女様の言いつけはなんでもきかないとなぁとか、象男は、口の中で、言い訳しました。
「ぶよぶよのうさぎの目玉なんか、おいらは、要らないと思うんだけどなあ。大魔女様は、なんでもかんでも、負けるのキライだからなあ。
あのうさぎは、うちじゅうのもん、食い尽くすから、実のとこ、逃げてくれて、みんな、ほっとしてるのも、確かだけどなあ」

もう、魔女もうさこもほっておきたいとこですが。まもちゃんも、任務は遂行するしかないのでした。

象男は、自慢しいですが、気は悪くないようです。まもちゃんの話をきくと、多いに同情したようでした。

「おいら、さがしてきてやるよ」
秘密の地下室とかに、厳重にかくしこまれているのでしょうか。
「いやいやぜんぜん、大魔女さまはなんせ、片付けができないおかたでなあ、うちの中のどっかに転がしてあるはずだから、あの中からさがすのが大変だと思うんだなあ」

そのとき、屋敷から、トメゴローを呼ぶ、厳しい声が飛んできました。冬のつららみたいな声でした。
象男は、さぁっと顔が白くなり、なんだか、ぽってりした体まで、一回り小さく縮んだかのようでした。

「とにかく、すこし、まってなさい」ささやくと、象男は、ささっと、木をおりて、うちの中に、駆け込んでいきました。

どこの森にも、似たような妖術使いや、似たような哀れな召使が、居るもんなのかなあ。ちょっぴりシンパシィをいだく、まもちゃんなのでした。

まもちゃんは、木からおりると、窓の一つに、こっそり近寄って、のぞいてみることにしました。女の子が、ピアノの前で、本を読んでいます。後ろに、ぽってりした女の人が、立っています。女の人の前に、象男がかしこまって、何か叱られているようでした。では、これが、大魔女なのでしょう。花柄のドレスなんか着て、あんまり魔女ってかんじでもないけれど。

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さて、みなさんは、魔女ってどんなもんだと、想像なさるでしょうか。
いぼだらけのかぎ鼻、もつれた白髪、ギョロリと落ちくぼんだ、こわいこわい眼?それは、普通の魔女なんです。魔王の下で、こきつかわれている下っ端の魔女ですね。
大魔女は、それとは別物です。誰の命令もききませんし、醜くもなりません。それは、周囲のものたちから、若さや美を、吸い取って生きているからです。だから、大魔女は、一見魔物には見えないくらい、若くて美しいものなのです。ホーキではなくって、赤い小さな、すてきな電気自動車を愛用しているし。

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でまあ、この大魔女も、こぎれいな女のひとなのですが、まもちゃんは、うさこのもとで嗅ぎなれた、邪悪な妖術のにおいを、はっきりとかぎわけられました。
叱られ続けて、象男は、どんどん縮かんでいくのに、ピアノの前の女の子は、まったく周りが目に入らないように、読書に没頭しています。
その奇妙な光景を観察しながら、この魔女はてごわいな、うさこのようにちょろくは、だしぬけないとな、まもちゃんは思いました。
部屋の床は、確かに、乱雑を極めていて、ここから、小さな目玉を一個、さがしだすのも、容易とは思えません。
まもちゃんは、象男トメゴローに、すべてを託す気持ちでした。早くこの黒っぽい森から、出ていきたいし。

まもちゃんは、木の根元に膝を抱えて座り、いつのまにか、居眠りしたようでした。
眼がさめると、月が、頭のてっぺんに、出ていました。このいまわしい魔女の森でも、月だけは、いつもの、冴え冴えとした天体でした。
まもちゃんがふうと溜息をつくと、溜息の中から出てきたかのように、突然象男が、目の前に立っていました。



つづく


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