== おはなし ==

 木苺の誘惑  その5

象男は、まず、手に持ったお椀を、まもちゃんに渡そうとました。木のスプーンも添えてあります。暖かい湯気と、強いスパイスの香り。
まもちゃんが首をふると、象男は、残念そうな顔をしました。でも、これを食べたら、どうなるか、まもちゃんは知っています。魔女の食べ物を魔女の敷地で食べたら、一生魔女の召使です。象男のように。

「やっぱうさこに目玉持って帰ってやらないと」
「そっかー、おまえなら、ずっとここにいてくれてもいいんだけどな」
象男は、ポケットから、赤いまるいものをひっぱりだしました。
「大魔女さま、いまお風呂だからさ、今のうちに帰ったほうがいいぞ、これ持って」

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思ったよりずっと、大きくて赤い、柔らかい目玉を、まもちゃんはそっと、エプロンに包みました。
これ、なくなったってばれたら、トメゴローは平気?

ふふふん。
象男は、えらそうに、鼻をならしました。
「大魔女様が大掃除がしたくなるまでは、絶対、ばれっこないやね。そんでもって、そんな気になるのは、何百年に一回だからな」

まもちゃんは何も持っていなかったので、ありがとうをこめて、象男と握手して、おわかれしました。ちょっとえらそうだけど、悪いやつではなかったなと、思いながら。

まもちゃんは落っこちてきた空き地まで戻り、黒い空に向かって、目玉をふりかざしました。森の闇のなか、目玉は妖しく朱く、サーチライトのように輝きました。
次の瞬間、まもちゃんは高く高く空に吸い上げられ、それからドサッと地面に、落っこちました。

気が付くと、いつもの台所で、うさこが鼻歌を歌いながら、お料理をしていて、まもちゃんは、食卓に座らされていました。
「食卓で、寝るんじゃありません」
言いながら振り向いたうさこの顔には、両方の目玉がちゃんと、ついています。
なんだ、うたたねの、夢だったの?

でも、うさこの左の眼が、ぎらんと、朱く光ったように、まもちゃんには見えました。

                    ※※※※※※※※※※※※※※

数日数週間たつと、目玉のことは、夢だったような気もしてきます。第一、大魔女の森なんか、どこにあったのやら。

いつものトイレ掃除や、お鍋磨きを、てきとーにエスケープしながらこなす日常が戻ってきたまもちゃんでしたが、ある夜、夢を見ました。
夢の中で、まもちゃんは、象男にあいました。
「あれから大丈夫だったー?」まもちゃんが尋ねると、トメゴローは、ふふんっと笑いました。こころなしか、さみしい笑いに見えました。
そして、なんにも言わずに、消えていったのでした。

夢からさめて、まもちゃんは、考えました。
大魔女の森は、どこにあるのか。

時計が、真夜中をつげています。まもちゃんは、台所にいき、一番大きなスプーンを、持ちました。それから、うさこの家まで、夜道を走って行きました。

うさこの寝室に、静かに入って、まもちゃんは、寝ているうさこの、左の目玉を、そぉっと、スプーンでくりぬきました。
うさこは、いびきをかいて、眠ったまま。
ぽっかりあいた、眼窩の、深い暗闇に、まもちゃんは、身体を滑りこませていきました。

 つづく


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